中部デザイン協会 デザインの仕事場におじゃまします

第19回 愛知県立芸術大学デザイン科教授 林英光氏

愛知県立芸術大学でデザイン科の教授として、そして自然環境と生活デザインという視点を通して、国内外で活躍しておられる景環デザイナーの林英光さんの自宅オフィスを訪ねてお話をうかがいました。閑静な住宅街に居を構えるオフィスは半地下の1階にありました。

インタビューアー:素敵なオフィスですがこのお宅は築何年ですか。

林さん:約8年ですかね。小さな建坪(林さんいわく)でしょ。しかし中にいると広々としていると皆さんおっしゃいますよ。これもデザインの成果ですね。(ちなみにご本人の設計)

インタビューアー:もともとこちらにお住まいだったのですか。

林さん:私は出身が千葉県九十九里の田舎なんですよ。50代半ばに海と山の別荘を全て処分し、高齢化時代に備え、歩いて世界中の何処へでも行けるよう地下鉄沿線に住居を移したのです。

インタビューアー:その林さんがどういう経過で名古屋にこられたのか、そのあたりから伺いたいと思います。

林さん:私は高校時代まで千葉にいました。高校の時はクラブ活動はしていませんでしたが、授業の中で美術に良い先生がいまして興味を持つようになりました。もともと絵を描くことが好きでしたからね。それで大学は東京芸大に進むことになったのですが、それも高校3年の夏休みに先輩に進められて決めたんですよ。

インタビューアー:そんな経緯で入学された大学では何を専攻されていたのですか。

林さん:専攻はIDですがグラフィック・彫金・漆など色々なことを体験しました。それからアルバイトで天童木工の仕事を通してプロのデザイナーと知り合いになり、イスの成型の面白さを知りました。成型といえば当時はプラスチックが脚光を浴びはじめたころでした。それで将来のプラスチックの可能性に引かれて卒業後に日立化成という会社に入りました。

インタビューアー:会社勤めもされたのですね。名古屋はまだ先みたいですがサラリーマン時代のお話を聞かせて下さい。

林さん:日立化成では様々なプラスチックについて勉強しました。この時の知識に今も助けられていますね。多くの工業製品の開発に関わりながら過ごしていました。そんなある時アイデア出しのブレーンストーミングがありまして、100人程の様々な分野の集団中で私がトップになりました。それが自分自身に何か大きな自信をつけた事を覚えています。そのことが理由ではないのですが、デザインをもっと違った視点でながめてみたくなり退社することにしたんです。会社勤めは1年半で終了しましたね。

インタビューアー:いよいよ名古屋ですか。

林さん:会社をやめた後は先輩から箕原正設計事務所の仕事を紹介され、また岡村製作所の嘱託としてスーパーのレイアウトやらディスプレーなどいろいろな仕事をしながら2年ほど東京にいました。

インタビューアー:それからどうされたのですか。

林さん:そんな時に恩師から愛知県立芸術大学での教員の仕事を薦められましてね。それで愛知県に来ることになったんですよ。丁度25歳のときでした。

インタビューアー:大学ではやはりIDを教えられたのですか。

林さん:ええ。しかし簡単ではなかったんですよ。私はすぐに教職につけると思っていたのですが、試験があると聞いて驚きました。
青山にあった河野鷹司先生のアトリエで試験があり、おかげで合格しましてようやくIDの助手としてスタートすることになったんです。

インタビューアー:それでは大学に来られてからのお話を聞かせて下さい。

林さん:もともと色々なジャンルに興味がありましたからね、その時に考えたのは生活全体のトータルなデザインということでした。それが発展して現在のトータルデザインシステムの発想になってきました。

インタビューアー:そのトータルデザインシステムについてお話いただけますか。

林さん:私は茶碗から都市までをトータルデザインで考えていました。全てが大きな関係性の中でバランスの取れたデザインということです。それが自然の環境を含めた景環デザインという発想につながってきたのです。ですから私のデザインの内容もID→家具→インテリア→建築そして景環デザイン全般というように変化してきました。

インタビューアー:現在は具体的にどのようなお仕事をなさっているのですか。

林さん:伊勢湾岸の30年がかりでの整備事業や岐阜駅前の再開発、市町村合併にかかわる地域づくり等色々な地域の公的な委員会のメンバーに参加し、そこで意見を述べ具体的なデザインをさせてもらっています。このような委員会は各専門分野の学者の皆さんが多く、理論は得意ですがグローバルな視点から地域環境を考えたトータルデザインという考え方が欠落していることが多いのです。私は自分の意見をイメージデッサンを描いて示します。その結果具体的に理解ができるため仕事を依頼をされることが多くなりますね。
私は景環デザインというものは、その場所で生活している人間の営みと歴史・風土に裏打ちされたプランでなければならないと考えています。その地域の生活の必然性によって生まれたものを単なる思いつきや浅薄な思考で壊してまで新たな物を構築することに大いに疑問を持っています。

インタビューアー:これからの本当に豊かな生活環境のために私たちも真剣に考えなければならない問題ですね。

林さん:まさに今、住むに価する我国の都市環境づくりのためのデザインの本質が問われています。

インタビューアー:それではおしまいになりますが、これからの若手デザイナーの皆さんに何か一言ありましたらお願いします。

林さん:私は今日まで様々なジャンルで多くの仕事をしてきました。そして、今それぞれのジャンルで専門性という内容が大きくかわろうとしています。特に専門職といわれた技術的な部分はコンピューターの普及で素人でも簡単にできると錯覚してしまう時代です。それは発想から結果に至るプロセスをジャンプした状態です。本来もの創りとは発想の後のプロセスにおいてもデザインの本質にかかわる大切な行為があります。
結果のみを求めて人の営みに価する部分が欠けていないだろうか。風土と歴史を大切にしたデザインを考えてほしい。人間に対する暖かい思いがにじみ出たデザインが多く出現することを望みます。さらに強く要望したいことは、欧米文化の追随というこれまでの日本人の体質から脱皮し、本当の意味での国際性である独自の文化のDNAを大切にした取り組みを、デザイン教育の現場を含めたあらゆるデザインの分野で積極的に進めて欲しいと思います。

インタビューアー:すばらしいメッセージをありがとうございました。これからも素敵な景環デザインを創り続けられるよう私たちからもお願いします。
本日はありがとうございました。


「会員の仕事場」のトップページ